第25回  鎌倉・由比ヶ浜あたり

 鎌倉に行くと江ノ電に乗りたくなる。どこの駅で下車しても散歩には困らない路線だが、この時は鎌倉文学館で「鎌倉と詩人たち」という企画展をやっていたので由比ヶ浜で降りた。

 鎌倉文学館は初めてだった。坂道をのぼってゆくと、落葉樹の続くアプローチでリスに出合い、心がはずんだ。「やあ、リスくん」とご挨拶。
建物を見て目を見張った。ひと言では形容しがたい建築だ。スパニッシュ風の味わいに、ドイツあたりに多い木の骨組みを見せるハーフティンバーがまじり、さらに庇や窓の一部は和風でもある。う〜ん、とうなって「しおり」を読むと、三島由紀夫の『春の雪』に登場する別荘だという。ああ、松枝侯爵の別荘だ、とすっかり嬉しくなる。『春の雪』は松枝清顕と綾倉聡子、若い二人の恋物語。なるほど、ここならあの小説の舞台にぴったりだと納得。

  実際には旧前田侯爵の別荘として昭和11年に建てられたもので、内部もアールデコの意匠など見ごたえがある。
肝心の詩人たちの方はというと、鎌倉ゆかりの詩人たちはこんなにいたのかと教えられた。萩原朔太郎、三好達治、中原中也などなど。中でも、現代詩をけん引した田村隆一は鎌倉ぬきでは語れない人。この土地で詩を書き、英米の小説を翻訳し、ひたすら酒を飲み、親友の北村太郎に女房を奪われたりしたのだ。詩人にかぎらず、鎌倉ゆかりの文学者は川端康成、小林秀雄をはじめ綺羅星のごとくいる。鎌倉には人に言葉を紡がせる言霊が棲んでいるのだろう。

 住宅街を散歩して由比ヶ浜に出た。ああ、ここだ、と思う。結婚する直前のころ、妻と訪れた砂浜。あの日と変わらず、海はぎらぎらと照りかえり、ウィンドサーフィンの三角形の帆がゆるい風をはらんでゆっくりと動いている。砂浜では、親子が駆け回り、若い夫婦が弁当を広げている。何もかも変らない。実はゆっくりと、人生は歳月を重ねているのかもしれない。ウィンドサーフィンの帆のように光ったり翳ったりしながら。ふと、脈絡もなく中原中也の詩句が口端にのぼる。「あなたはそんなにパラソルを振る/僕にはあんまり眩しいのです/あなたはそんなにパラソルを振る」。

藤田晴央(日本現代詩人会会員)